＜コナビグア＞
コナビグアは１９８８年、第一回全国グァテマラ寡婦大会にて設立されました。内戦の下、家族を奪われた女性たちが、平和に生きる権利を求めて立ち上がったのです。
それから今日に至るまで、人権侵害の告発、人権侵害の実働部隊となった「自警団（ＰＡＣ）」の解体、若者を強制的な徴兵制度から守るための闘いなどを続けてきました。
内戦終結後は、数多くの農村部の先住民族女性が参加する全国組織として、内戦被害に対する補償の要求、女性の政治参加、先住民族の権利などさらに多くの課題に取り組んできました。
コナビグア代表のロサリーナさんは、９６年から２０００年まで国会議員を務め、２００４年からは「戦後補償委員会」の代表を務めています。
ロサリーナさん
 |
＜グァテマラ内戦＞
１９９６年１２月までの３６年間、グァテマラでは内戦が続いていました。内戦は２０万人以上の死者・行方不明者、１５０万人以上の国内避難民を生み出しました。
しかし死者・行方不明者の９割は非戦闘員であり、特にマヤ民族が弾圧の対象となったのです。グァテマラの内戦は、左派武装勢力と政府軍の衝突でしたが、その陰で、ゲリラ組織の壊滅という名目の下、マヤ民族を対象とした民族虐殺が行われたのです。
何百という村々が政府軍の手で焼き払われ、地域の社会運動のリーダーや伝統的な宗教の指導者が軍情報部やその傘下の部隊などにより誘拐され、殺されました。また軍の対ゲリラ作戦に協力しないものはゲリラの仲間として非難され、殺されていったのです。巧妙に仕組まれたゲリラ対策の一環として、村の中に不信と分断が持ち込まれ、村人同士が殺す、殺されるという関係に追い込まれることも珍しくありませんでした。
また内戦は、村々に存在した伝統的な権威や規範の破壊をももたらしました。
青い部分がグァテマラ
 |
＜内戦から立ち上がるマヤの女性たち＞
グァテマラの内戦のなかで、とりわけ弾圧がひどかったのは１９８０年代初頭でした。コナビグアに参加する多くの女性たちは、この時期、軍によって家族を殺害されました。住み慣れた村を離れ、山の中に逃げ込んだ人々も少なくありませんでした。
８６年の民政移管後、徐々に人々が集まり、声を上げることができるようになりました。それ以前は、村で集まりを持つこと自体が極めて危険なことでした。
集まることから始まりました。以前は女性たちだけで集まることはほとんどなかったといいます。しかし家族を奪われ、夫を奪われた女性たちは、集まり、自分たちの権利を守るために立ち上がったのです。
集まって話をする中で、家族を奪われた悲しみを分かち合うことが出来ました。
集まって話をする中で、自分たちの持つ権利について学ぶことが出来ました。
集まって話をする中で、同じような問題を抱えている女性たちが解決のために立ち上がる力を得ました。
集まっているだけでゲリラだと言われ殺される危険の消えない時代に、「家の外にいればよい」、「どうせ何もできない」と言われてきた女性たちが、声をあげ、立ち上がったのです。 |
＜内戦から立ち上がるマヤの女性たち＞
−平和な社会を求めて−
コナビグアの女性たちが取り組んできたのは、まず暴力のない社会、平和な社会を築くための運動でした。
自分たちが安心して集まれるように、村の中で暴力が使われないように、政府に対して「自警団」の廃止を求めました。政府軍が、「ゲリラ」監視組織として、村々に作らせた自警団は、村人を監視するメカニズムだったのです。「自警団」の存在は村内に恐怖をばらまき、誰もがいつ脅迫を受け、いつ殺されても不思議ではない空気で村を覆い尽くしました。
そこでコナビグアは人権侵害を告発し、その原因となっている「自警団」の廃止を求めました。
また「強制的な徴兵制度の廃止」も求めました。当時、軍隊は市場や幹線道路上などに検問所をもうけ、若者たちを力ずくで軍に組み込んでいました。このような連行・徴兵は明らかな人権侵害に当たるばかりでなく、コナビグアの女性たちにとって、虐殺の嵐を生き抜いた彼女たちに残されたかけがえのない家族が、かって肉親を殺した軍隊にとられ、殺人兵器に仕立て上げられていくということは受け入れがたいことでした。
こうして女性たちは、脅迫を受け、命の危険を感じながらも、平和を求める声をあげ始めたのです。
デモに参加する女性たち |
＜内戦終結と和平協定＞
１９９６年末、グァテマラ政府と左派ゲリラ（グァテマラ民族革命連合：URNG）との間で和平協定が調印されました。和平協定はさらに「包括的人権協定」、「先住民族のアイデンティティーと権利」、「社会経済側面と農業問題」、「文民権力の強化と軍部の役割」など個別の協定を含んでいます。しかし２００４年現在、同協定はいまだ完全な履行から程遠く、グァテマラを内戦に導いた問題がすべて解決したわけではありません。
一方、和平協定のなかには「真相究明委員会」の設置も盛り込まれ、１９９９年にはどう委員会の報告書が公表されています。
報告書は、被害者の尊厳を回復し、真実を広く知らせること、被害者への補償、秘密墓地の発掘、平和教育の実施、民主化プロセスの強化、ジェノサイドの調査と責任者の処罰などを勧告しており、内戦からの復興、平和な社会の構築を期す上での重要な文書となっています。
秘密墓地の発掘現場
|
＜和平協定履行とコナビグア＞
和平交渉は政府とＵＲＮＧの間で進められ、市民社会および内戦の被害者たちは交渉の場に出席できる直接の当事者ではありませんでした。
しかし、コナビグアをはじめとする民衆組織・市民セクターの代表は「市民社会協議会」を設置し、和平交渉と並行しつつ協議を進めるとともに、交渉の場にその都度市民社会の側から独自の提案を投げかけ、その一部は実際に和平協定に盛り込まれることとなりました。
またコナビグアの女性たち多数から寄せられた証言や秘密墓地発掘の調査結果、被害者への賠償、平和な社会を築くための提言は、真相究明委員会の報告と勧告に反映されています。
女性たちの声、先住民族の声、そして内戦被害者としての声を和平協定に反映させる上で、コナビグアは重要な役割を果たしました。
発掘・検死後、改めて埋葬される遺骨 |
＜真相究明活動とコナビグア＞
−秘密墓地の発掘−
内戦時代に殺害された被害者の遺体の多くは、虐殺現場に放置されたり、村の周辺や山中に簡単な穴を掘って埋められただけで、こうした場所は「秘密墓地」と呼ばれています。
コナビグアは、内戦終結前の１９９１年から秘密墓地の発掘活動を始めています。虐殺の歴史を明らかにし国内外に伝えていくために、虐殺の責任者を明らかにし処罰を求めるために、そして家族を正式に墓地に埋葬するために、コナビグアは各地で「秘密墓地」の発掘作業を進める中心的組織となっています。
秘密墓地を発掘すれば、軍部や元自警団員など加害者側からの脅迫や嫌がらせも避けられませんが、家族を取り戻したい、という女性たちの思いを受けて、コナビグアは発掘作業を続けています。
発掘に向けてコナビグアのメンバー間や地域住民との間で対話をすすめるとともに、検察や司法機関との手続きの調整、実際に発掘作業を実施する機関との調整もコナビグアの担う重要な仕事です。地域社会の中での対立を引き起こしかねない問題を扱うため、準備は慎重な積み重ねを必要とし、各地にメンバーを抱えるコナビグアのような組織の存在が成功の鍵を握ります。
発掘された遺体は、専門家の検死に付されたのち、家族の手によって、各人の宗教にのっとって埋葬されます。
秘密墓地の発掘作業は、９１年に始まり１０年以上続けられていますが、まだまだ数多くの「秘密墓地」が残されたままになっています。 |
＜コナビグアの活動の成果＞
これまで果たしてきた役割だけをとっても、コナビグアはグァテマラ国内において、最も重要な人権組織の一つということができます。人権侵害が起こったとき、あるいはその恐れがあるとき、コナビグアの発信する緊急の呼びかけはは、国内外に大きな反響・支援を巻き起こしてきました。
コナビグアの地道な活動が、自警団の廃止につながり、「強制的徴兵」制度の廃止と兵役に代わる社会奉仕制度の立法化を可能にしました またコナビグアの力が「秘密墓地の発掘」を続ける原動力となってきました。新政府が補償問題に取り組む姿勢を見せているのも、コナビグアの運動抜きにはあり得なかったことです。
しかしそれだけではありません。
農村部の女性たち、その多くがスペイン語を話さない先住民族の女性たちにとっては、コナビグアという存在こそ、様々な情報を得、自分たちの状況を知るための場となっているのです。
また女性たちが集まり、話し合うなかから、他の女性たちの経験を知ることもできれば、自分たちの権利について学ぶこともできます。こうした過程が、「自分たちにもできる」という自信をつけることにつながっていきます。
マヤの女性たちが力をつけていく上で、コナビグアは大きな役割を果たしているのです。
秘密墓地発掘後のセレモニーに向かう
|
PDFファイルでのダウンロードはこちら  |
|
| その他のコナビグア関連ページ |
|
